個人再生
コラム
個人再生で住宅を残す方法-住宅資金特別条項②(具体的な内容)
弁護士の櫻田です。
個人再生をする大きなメリットの一つとして,住宅ローンはそのまま返済をして,住宅を残して住み続けることができる点があります。
これを可能にする制度が「住宅資金特別条項」であり,その意義と条件については,別の記事でご説明したとおりです。
今回は,さらに進めて,住宅資金特別条項の具体的な内容についてご説明したいと思います。
この点,住宅資金特別条項は,上記のとおり,住宅ローンはそのまま返済するものですので,個人再生手続後も,住宅ローン契約(金銭消費貸借契約)の約定通りに,遅滞なく返済していくことが原則的な内容になります。
しかし,住宅ローンはそのまま返済をするとしても,借金の返済が困難となっている状況では,既に住宅ローンの滞納がある場合や,個人再生の弁済期間中は住宅ローン以外の再生債権の弁済があるので住宅ローンの返済の負担が大きい場合,住宅ローンの返済期間を延長して毎月の負担を減らしたい場合など,様々な事情を抱えていることがあります。
こうした場合でも,住宅ローンの債権者である銀行等の金融機関と事前に協議をして了解や合意を得ることが条件となりますが,その解決方法を資金特別条項の内容に盛り込むことが可能になります。
以下,住宅資金特別条項の具体的な内容,特に,民事再生法199条の各条項についてご説明します。
目次
「そのまま型」(民事再生法199条1項)
個人再生の申立前に住宅ローンの滞納がない場合は,住宅資金特別条項として,個人再生の申立後も,住宅ローン契約通りにそのまま返済を続けていくことが内容となります。
このタイプの住宅資金特別条項を「そのまま型」と呼んでいます。
このように,住宅ローンの返済方法を変更せず,現行の住宅ローン契約に従って返済をしていく場合でも,再生計画による権利変更の例外である以上,住宅資金特別条項として再生計画に定める必要があり,これを定めずにそのまま返済をすることはできないので,注意が必要です。
また,住宅ローンも再生債権の一つであるので,個人再生の申立てをして,再生手続開始の決定があった後は弁済が禁止される(民事再生法85条1項)ため,住宅ローンを継続して返済していくためには,個人再生の申立てに併せて,一部弁済許可の申立て(民事再生法197条3項)をする必要があります。
「期限の利益回復型」(民事再生法199条1項)
個人再生の申立前に住宅ローンの返済を滞納している場合は,住宅資金特別条項として,滞納している分を再生計画の弁済期間内に弁済することで,再生手続開始前に発生している滞納による期限の利益喪失の効果を失わせることが内容となります。
具体的には,①滞納している分については,再生計画で定める弁済期間(原則3年,最長5年)内に支払い(民事再生法199条1項1号),②滞納していない分(支払期限が到来していない分)は,現行の住宅ローン契約に従って支払う(民事再生法199条1項2号),という内容になります。
なお,滞納分の支払いは一括でも構いませんが,通常は,再生計画の弁済期間で分割をしていく(3年間であれば36回払い)ことになると思います。
このタイプの住宅資金特別条項を「期限の利益回復型」といいます。
例えば,月10万円の返済をする内容での住宅ローンを組んでいたとして,申立前に2ヶ月分(20万円)の滞納があり,再生計画の弁済期間を3年間で定めた場合は,再生手続開始後,約定通りに月10万円の返済を続けていくことに加え,再生計画の弁済期間中,滞納分20万円について毎月約5,600円(20万円÷36回)の分割金を支払うことになります。
「リスケジュール型」(民事再生法199条2項)
上記の「そのまま型」や「期限の利益回復型」では返済をしていく見込みが立たない場合には,住宅資金特別条項として,利息・損害金を含めて全額弁済することを前提に,住宅ローンの返済期間を最大10年間,債務者が70歳を超えない範囲内(満70歳の誕生日の前日まで)で延長(リスケジュール)し,毎月の返済額の負担を減らすという内容を定めることができます。
リスケジュール後の,返済の間隔(毎月払い,ボーナス払い等)や金額(元利均等払い,元金均等払い等)は,変更前の契約と概ね合致させる必要がありますが,ボーナス払いを取りやめることなどはできる場合があります。
このタイプの住宅資金特別条項を「リスケジュール型」といいます。
返済期間が最大10年間延長されるので,支払回数も最大360回増えることになり,毎月の負担額は相当減額されることになりますが,リスケジュールをした後の最終の返済日が70歳までに制限されるので,この点は注意が必要です。
「元本猶予期間併用型」(民事再生法199条3項)
上記のリスケジュール型による返済期間の延長だけでは返済の見込みが立たない場合には,さらに,住宅資金特別条項として,再生計画の弁済期間(原則3年,最長5年)中は,住宅ローンの元本の一部について弁済の猶予を受けるという内容を定めることができます。
これは,再生計画の弁済期間中は,住宅ローン以外の再生債権の弁済をしなければならないことから,この負担を考慮して,再生計画の弁済期間中を限度として,住宅ローンの元本部分の返済をしなくてもいいとしたものです。
このタイプの住宅資金特別条項を「元本猶予期間併用型」といいます。
この元本猶予期間併用型においても,リスケジュール後の住宅ローンの最終の返済日が70歳までに制限されますので,注意が必要です。
「合意型」(民事再生法199条4項)
上記のいずれのタイプによっても返済の見込みが立たない場合などは,住宅ローンの債権者の同意を得ることを条件に,上記のタイプとは異なる内容の住宅資金特別条項を定めることができます。
具体的には,例えば,次のような条項が考えられます。
・住宅ローンの返済期間を10年を超えて延長する条項
・住宅ローンの最終返済日における再生債務者の年齢が70歳を超えるまでリスケジュールする条項
・一定期間,住宅ローンの元本全額の支払いの猶予を受けて返済期間を延長する条項
・利息や損害金の一部又は全部,元本の一部の免除を受ける条項
このタイプの住宅資金特別条項を「合意型」といいます。
合意型の住宅資金特別条項を定める場合,住宅ローン債権者による同意は必ず書面によるものでなければならず,再生計画案の提出の際には,その同意書の原本を添付する必要があります。
経験上は,この合意型の条項について,債権者の同意を得ることはなかなか困難です。
特に,元本はいうまでもなく,利息や損害金の免除を受けることも,極めて困難です。住宅ローンの債権者が,契約書で定められた金額自体を減免してくれることはないと考えた方がいいでしょう。
いずれのタイプであっても住宅ローン債権者と事前協議することが必要!
住宅資金特別条項は,住宅ローンの債権者の利害が影響するものですので,個人再生の申立前に,どのタイプの条項を定めるかについて,事前に協議することが必要になります。
「そのまま型」の場合には,債権者としても異論がないことがほとんどですが,それ以外のタイプの場合には,事前に協議をして,債権者の了解を得ておくことが不可欠になります。
また,「そのまま型」以外の場合には,住宅資金特別条項で変更された具体的な返済額などについては,計算方法がかなり複雑ですので,債権者に,詳細なシミュレーションを作成してもらう必要があります。
今回は,住宅資金特別条項の具体的な内容についてご説明しました。いろいろなタイプがあり,分かり難かったと思います。
住宅ローンの返済は遅滞なくしていくことが原則ですので,住宅資金特別条項は「そのまま型」とすることを推奨します。
その他のタイプについては,銀行等の金融機関を事前に協議をして,了解や合意を得ておく必要があり,金融機関の方針によっては,受け入れてもらえない場合もあるほか,その金融機関独自の手続を経ることが必要な場合もありますので,注意が必要です。