個人再生
コラム

個人再生で住宅を残す方法-住宅資金特別条項①(意義・条件)

弁護士の櫻田です。

個人再生をする大きなメリットの一つとして,住宅ローンはそのまま返済をして,住宅を残して住み続けることができる点が挙げられます。

自己破産をする場合は,原則として,ほとんどの財産は処分・換価され,特に,ローンの支払いが残っている住宅は,抵当権を設定している銀行等の金融機関により競売にかけられるなどして売却されてしまいます。
これに対し,個人再生をする場合,住宅資金特別条項という制度を利用することによって,住宅ローンはそのまま返済をしながら,住宅を残すことが可能になるのです。

今回は,この住宅資金特別条項の意義・条件についてご説明します。

住宅資金特別条項の意義

住宅資金特別条項を利用すれば,個人再生手続で,住宅ローン以外の借金を減額してもらった上で,住宅を残して住み続けることが可能になります。
住宅資金特別条項とは,要するに,住宅ローン以外の借金は減額されるけども,住宅ローンについては,減額の対象とせず,特別に返済を続けて,結果として,住宅を残すための制度のことをいいます(民事再生法10章)。

本来,個人再生手続では,債権者平等の原則の下,特定の債権者の債権だけ減額の対象とせず,返済を続けることは許されないことです。

しかし,住宅ローンについては,通常,債権者である銀行等の金融機関やその保証会社に対して抵当権が設定されています。抵当権は,再生手続とは関係なく行使できる権利(これを「別除権」といいます)ですので,仮に,住宅ローンを個人再生による減額の対象としてしまうと,住宅ローンの金融機関や保証会社は,自らの債権を少しでも多く回収するため,抵当権を行使して競売を申し立て,住宅は売却処分されてしまうことになります。
住宅が売却処分されてしまうと,債務者の住居が奪われ,結果として,その人の経済的な再生を図ることができなくなってしまいます。

そこで,個人再生では,債権者平等の原則の例外として,住宅ローンについては特別に減額の対象とせず,返済を続けることを認め,住居の面から,債務者の保護を図ることにしたのです。

注意点としては,住宅ローンそのものは減額されない,ということです。
場合によっては,返済期間を延長するなどの対応をすることはできますが,住宅を残せるという大きなメリットがありますので,住宅ローンは全額返済することが前提となっています。

住宅資金特別条項を利用するための条件

以上のように,住宅資金特別条項には債務者にとって大きなメリットが反面,住宅ローン以外の減額の対象となる債権者からしてみれば,債権者平等の原則の例外となる特別扱いですので,民事再生法が定める要件を満たしていなければ利用することができません。

民事再生法では,住宅資金特別条項を利用することができるのは「住宅資金貸付債権」に限定しています。
この住宅資金貸付債権とはいわゆる住宅ローンのことですが,正確には,「住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払いの定めのある再生債権であって,当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているもの」(民事再生法196条3号)と定義されています。

以下,住宅利金特別条項を利用するための条件,特に,住宅資金貸付債権に該当するための条件についてご説明します。
なお,以下に列挙する条件はすべて必要で,一つでも欠けると,住宅資金特別条項は利用できなくなるので,注意が必要です。

住宅の購入・建設や改良のためのローンであること

住宅ローンの目的(資金使途)が,住宅を購入・建設したり,リフォームをしたりするためのものである必要があります。
また,一戸建てなどの場合は,住宅の敷地も必要となるので,その土地や借地権を取得するために必要な資金も含まれます

再生債務者が所有し自己の居住を目的とする住宅であること

住宅資金特別条項の対象となるのは,再生債務者が自己の居住用に所有している1棟の住宅に限られます。

居住の要件について,投資目的用のマンション・アパート,事業目的用のビル,居住用であっても別荘やセカンドハウスなど2棟目以降の建物は,住宅資金特別条項の対象とはなりません。
二世帯住宅,店舗兼住居,一部他人に賃貸している建物については,その床面積の2分の1以上に相当する部分を自らが居住用に使用していれば,居住の要件は満たします。
単身赴任等で一時的に住宅を離れている場合でも,将来的にその建物に戻る予定があれば,居住の要件が認められる可能性が高いです。

所有の要件については,共有も含まれます。共有の持分がわずかな場合でも,所有の要件は満たします。

銀行等の金融機関や保証会社の抵当権が設定されていること

住宅ローンを組む場合,併せて,その住宅に銀行等の金融機関や保証会社の抵当権が設定されることが通常ですので,この条件が問題となることは少ないでしょう。

住宅ローン以外の借金について住宅に抵当権等の担保権が設定されていないこと

上記のとおり,住宅には,住宅ローンの債権者である銀行等の金融機関や保証会社の抵当権が設定されているはずです。
しかし,住宅ローン以外の借金について,住宅に抵当権や根抵当権などの担保権が設定されている場合は,住宅資金特別条項を利用することはできません
住宅資金特別条項は,再生債務者の住宅を保護するために特別に認められたものですので,住宅ローン以外の借金についてまで特別扱いはされないことになるのです。

問題となるのは,不動産担保ローンを利用している場合でしょう。
事業目的の融資に多いのですが,住宅等の不動産を担保にして融資が行われることがあり,この場合,根抵当権といって,一定の範囲の金額(極度額)を上限に,貸付・返済を繰り返す融資の担保として,これが住宅に設定されることがあります。
住宅ローンの抵当権以外に,このような不動産担保ローンの根抵当権などが住宅に設定されている場合には,住宅資金特別条項を利用できないことになります。

保証会社が代位弁済している場合は代位弁済日から6ヶ月以内に個人再生の申立てをすること

住宅ローンの返済を遅滞していると,数ヶ月後(多くは3~6ヶ月後)には期限の利益を喪失し,保証会社が代位弁済をすることになります。つまり,住宅ローンの債権者としては,債務者本人からの返済が難しいので,保証会社に,代わりに,残金全額を一括で支払ってもらうことになるのです。
通常,保証会社による代位弁済がされてしまうと,住宅ローンとして返済を継続することは困難になり,結果,住宅を残すことは困難になります。
しかし,この保証会社による代位弁済日から6ヶ月以内に個人再生の申立てをすれば,住宅資金特別条項を利用することができます。こうすることで,保証会社の代位弁済がなかったものとして扱われ,住宅ローンの返済を継続することが可能になります。このことを「巻戻し」といいます。
まとめると,保証会社の代位弁済から6ヶ月以上経過してしまうと,巻戻しをすることはできず,住宅資金特別条項を利用することができなくなるので,注意が必要です。

今回は,住宅資金特別条項の意義と条件についてご説明しました。
住宅資金特別条項の具体的な内容についても気になるところかと思いますので,これについては,後日,別の記事でご紹介したいと思います。