個人再生
コラム
個人再生の最低弁済額の算定
弁護士の櫻田です。
今回は,個人再生の最低弁済額の算定についての記事です。
個人再生では,住宅ローン以外の借金を大幅に減額する手続ですが,具体的にいくら支払えばいいのかは,いくつかのルールによって決められることになります。
個人再生では,最低でもこれだけは支払わなければならないという基準額が法律で決められており,これを「最低弁済額」といいます。
初めての方にはなかなか理解が難しいこともありますので,この最低弁済額の算定について,順を追って説明します。
借金総額によって導かれる最低弁済額
民事再生法では,以下のとおり,借金の総額による最低弁済額の基準が定められています(民事再生法第231条第2項第3項)。
なお,ここでいう借金総額には住宅ローンは含まれません。住宅ローンは別枠で考えることになります。
借金総額:100万円以下 → 最低弁済額:借金総額の全額
借金総額:100万~500万円 → 最低弁済額:100万円
借金総額:500万円~1500万円 → 最低弁済額:借金総額の1/5
借金総額:1500万円~3000万円 → 最低弁済額:300万円
借金総額:3000万円~5000万円 → 最低弁済額:借金総額の1/10
経験上,借金総額が1500万円を超えている方は稀ですので,多くの場合,裁判所から認可を受けると,500万円までの借金であれば100万円に,500万円から1500万円までの借金であれば1/5に減額されることになります。
このように,借金総額が大きくなるほど,基本的には最低弁済額も大きくなりますが,減額される割合も大きくなります。
清算価値保障の原則
上記の借金総額による基準だけでは,まだ最低弁済額は確定しません。「清算価値保障の原則」による修正があります。
清算価値保障の原則とは,個人再生の最低弁済額は清算価値の金額以上でなければならないというものです。
清算価値とは,保有するすべての財産を金銭に換価した場合の価値のことです。例えば,現金,預貯金,株・社債などの有価証券,保険の解約返戻金,不動産,車,退職金見込額などが清算価値として算定されます。
簡単にいうと,最低弁済額は,現金,預貯金,その他すべての財産を現金で評価して,その評価額以上でなければならないのです。
つまり,自己破産をして財産を処分しなくてもいいけれど,その代わり,少なくとも自己破産をする場合(財産を清算する場合)よりも多くの金額を返済することを債権者に保障しているのです。
債権者からすると,債務者が自己破産をして財産を処分して配当を受けた方が得をするのであれば,自己破産をしてくれた方がよかったということになりますが,このようなことが発生しないよう,個人再生では,清算価値保障の原則を規定して,債権者が自己破産の場合よりも多くの金額の返済を受けることを保障しているのです。
ただ,一言で清算価値といっても,この算定は一筋縄ではいきません。財産にもいろいろな種類があり,各財産の性質に応じて,その清算価値を算定しなければなりません。また,申立てをする裁判所によって,清算価値の算定方法が異なる場合があります。
清算価値の算定については,後日,記事を改めて説明したいと思います。
可処分所得の要件(給与所得者等再生の場合)
小規模個人再生を選択した場合は,上記の借金総額による基準額か清算価値のいずれか高い方が最低弁済額になります。
しかし,給与所得者等再生を選択した場合は,さらにもう1つの要件が加わることになります。すなわち,借金総額に基準額,清算価値,可処分所得2年分の三つを比較して,一番高い金額が最低弁済額になります。給与所得者等再生をする場合には,最低でも可処分所得の2年分以上の金額を返済する必要が生じることになるのです。
可処分所得とは,分かりにくいかもしれませんが,給与所得(総収入から税金・社会保険料等を控除した額)から最低生活費を差し引いた金額のことです。最低生活費は,個々の家計状況の実態ではなく,居住地や扶養者数などによって法定されています。
ここで具体例を挙げてみましょう。職業が会社員の方を前提とします。
・借金総額:600万円
・清算価値:130万円
・可処分所得:年間70万円
この方が個人再生をした場合,最低弁済額はいくらになるでしょうか?
まず,借金総額による基準では1/5になるので,120万円です。しかし,清算価値がこれを上回る130万円です。したがって,小規模個人再生を選択すると,最低弁済額は130万円になります。
他方,給与所得者等再生を選択すると,これに可処分所得の要件が加わり,可処分所得の2年分の金額は140万円になりますので,最低弁済額は,一番高い140万円となります。
このように,給与所得者等再生では,相応の収入がある場合は,最低弁済額が高額になってしまうことがよくあります。
では,そもそも選択するメリットがないとも思えますが,そうでもありません。給与所得者等再生では,認可にあたって,再生計画に対する債権者の書面決議がないというメリットがあります。つまり,債権者の過半数から反対されたとしても,他の要件さえ満たしていれば,裁判所から認可を受けられるのです。
給与所得者等再生を選択するかどうかは,最低弁済額と債権者からの反対のリスクを比較検討する必要があります。
今回は以上になります。