個人再生
コラム

個人再生の再生計画が認可された後に返済が難しくなった場合の対応②-ハードシップ免責

弁護士の櫻田です。

今回は,前回に引き続き,再生計画認可後に返済が困難になってしまった場合の対応として,ハードシップ免責について説明します。

ハードシップ免責とは?

一度認可された再生計画に基づく返済を怠ると,債権者としては,裁判所に対し,再生計画の取消しの申立てをすることができます。

再生計画が取り消されてしまうと,覚悟を決めて,弁護士に依頼して,個人再生の申立てをし,再生計画の認可を受けたにもかかわらず,それまでに要した努力(費用・労力・時間など)が水の泡になってしまいます。

しかし,病気や勤務先の倒産など本人ではどうしようもない事由で,再生計画が履行できなくなってしまうことは,それまで再生計画に基づいて誠実に返済を続けてきた債務者にとってはあまりに酷な結果となってしまいます。

そこで,再生計画認可後に,やむを得ない事由で再生計画を遂行することが極めて困難になった場合には,一定の条件の下で,裁判所から免責の決定を受けられる制度があります。この制度を,ハードシップ免責といいます。

免責とは法的に債務の支払義務を免れることですので,平たくいうと,自己破産と同様,借金がチャラになるということです。

ハードシップ免責を利用するための要件とは?

ハードシップ免責を利用するためには,民事再生法235条1項に規定された要件を充たしている必要があります。

以下,この要件をまとめます。

責めに帰すことができない事由で再生計画の遂行が極めて困難となったこと

まず,前段の「責めに帰すことができない事由」(帰責事由)とは,故意や過失など法的に責任を負わなければならない事由がないことをいいます。

つまり,再生計画に基づく返済をできなくなってしまった原因について,債務者本人に,故意又は過失がないことが必要になります

例えば,勤務先から突然リストラされてしまって再就職先が見つからない場合病気や事故に遭って働けなくなってしまった場合には,本人に帰責事由がないと判断される可能性が高いでしょう。

これに対して,例えば,返済に充てるお金をギャンブルや浪費で使ってしまった場合,不祥事を起こして勤務先を懲戒解雇された場合には,本人には,故意又は少なくとも過失があるといえるので,帰責事由があると判断されることになるでしょう。

次に,後段の「再生計画の遂行が極めて困難となったこと」ですが,平たくいうと,再生計画に基づく支払いが不可能になったということです。

別の記事で,再生計画の変更について説明をしましたが,収入が途絶えてしまった,病気などで働けなくなってしまったということであれば,再生計画の変更により,当初の再生計画を2年間延長したとしても,支払いは不可能といえるでしょう。

再生計画で定めた弁済額(各債権)の3/4以上の弁済を終えていること

ハードシップ免責を利用するためには,当初の再生計画に基づく弁済総額の3/4以上の返済を終えている必要があります

例えば,再生手続前に800万円の借金があり,個人再生の申立てをして,その認可を受け,再生計画に基づく弁済総額は160万円になったとします。
このケースで,認可後,やむを得ない事由で返済が困難となり,ハードシップ免責の申立てをするには,160万円の3/4である120万円以上の返済を終えている(返済残額が40万円以下である)必要があるのです。

サラッと書いていますが,この要件はかなりハードルが高いです。
3/4以上の返済が終えているということは,再生計画の返済期間も終盤に差し掛かっている時期です(例えば,返済期間3年の36回払いであれば,既に27回以上の返済を終えている時期になります)。
要するに,再生計画に基づく返済を相当長期にわたって継続した状況でないと,ハードシップ免責の利用はできないということです。

免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反しないこと

この要件は,一言でいうと,清算価値保障のことです。

債権者の立場からすると,返済が困難となった債務者が自己破産をすると,住宅や車などの財産が処分・換価され,配当を受けることができたはずです。
にもかかわらず,自己破産ではなく,個人再生の手続では,経済的更生の機会を与え,減額された金額を3~5年かけて返済することを認めるわけです。
とすると,個人再生の場合は,自己破産の場合よりも,債権者が多くの金額が回収できるようにしなければ,不公平になります。

そこで,個人再生では,再生計画に基づく弁済総額は,預貯金,住宅,車など債務者が保有するすべての財産の価値以上でなければならないという制限が加えられています。これを清算価値保障の原則といいます。

では,ハードシップ免責における「再生債権者の一般の利益に反しない」とは,どのような意味でしょうか。

なかなか分かりにくいかと思いますので,具体的な事例で説明します。

【事例】
Aさん(50代,会社員)のケース。
借金総額が612万円あり,返済が困難となって,弁護士に相談。
返済条件等を見直すべく,個人再生(小規模個人再生)の方針で弁護士に依頼。
預貯金,保険解約返済金,車などの財産の清算価値は100万円。
再生計画の返済期間は3年を希望。
申立てをして,再生計画が認可され,再生計画に基づく弁済総額は122.4万円となった(債務基準:612万円×1/5=122.4万円>清算価値:100万円)。これを3年36回払いで,各回3.4万円ずつ返済しくことになった。
その後,Aさんは,再生計画に基づく返済を地道に続け,27回分(計91.8万円)を返済したところで,リストラにあい,失職してしまった。
そこで,Aさんは,ハードシップ免責の利用を検討した。

上記の事例では,Aさんは,リストラというやむを得ない事由で失職し,返済が不可能となっており,かつ,再生計画に基づく弁済総額の3/4以上の返済を終えています。

しかし,Aさんには,預貯金等の財産があり,再生手続でその清算価値は100万円と算定されていました。
仮に,Aさんが当初から自己破産をしていれば,債権者全体としては,清算価値である100万円の配当を受けることができたはずです。
つまり,このケースでハードシップ免責を認めると,自己破産の場合と比べて,債権者全体としては,100万円-91.8万円=8.2万円の損をしてしまうことになります

この結果は,清算価値保障に反することとなるので,再生債権者の一般の利益に反するとして,ハードシップ免責の要件を充たさないことなります。

要するに,ハードシップ免責における「再生債権者の一般の利益に反しない」とは,再生計画に基づいて返済を終えた金額が,当初から自己破産をしていた場合には受け得た配当額(清算価値)を上回っている必要があるということです。

上記の事例でいうと,Aさんは,あと3回返済をして,再生計画に基づく返済が102万円(3.4万円×30回)となれば,清算価値の100万円を上回るので,この要件を充たしたことになります。

このように,この要件は,清算価値がほぼないようなケースであれば問題はありませんが,上記の事例のように一定額の清算価値がある場合は,やはりハードルが高い要件といえるでしょう。

再生計画の変更をすることが極めて困難であること

認可された再生計画の返済期間を2年の範囲で延長するという再生計画の変更では,返済の目途が立たないということが必要です

返済期間を2年延長して返済ができるのであれば,そもそも免責を認めるまでもないということです。

ハードシップ免責をすると住宅ローンはどうなる?

ハードシップ免責の決定が確定すると,一定の非減免債権等を除く,すべての債務について免責されることになります(民事再生法235条6項)。

そして,免責の効果が及ばない一定の債権に住宅ローン債権は含まれていないので,他の債権と同様,住宅ローンの残額についても免責の効果が及ぶことになります。

しかし,ハードシップ免責の効果は,銀行等の住宅ローン債権者が有する抵当権などの担保権(別除権)には及びません。
したがって,住宅ローン債権者は,ハードシップ免責の決定が確定した場合は,自らの抵当権を実行して,住宅を競売にかけて,残額の回収を図ることになります。

今回は以上です。
ハードシップ免責の利用を検討する段階では既に返済が困難になっているものと考えられますので,まず,再生計画の変更によって解決を図ることができないか,そもそもハードシップ免責の要件を充たすのかなどについて早急に弁護士に相談をした方がいいと思います。
もっとも,上記のとおり,ハードシップ免責の要件は相当厳しいので,再生計画認可後に返済が困難になった場合は,改めて,自己破産の申立てをするのが一般的です
なお,当事務所では,個人再生の依頼をいただくと,再生計画認可後の返済代行等のサポートもさせていただいております。また,そのサポートの一環で,ハードシップ免責の申立てを代理する場合の弁護士費用も大変ご利用がしやすく設定させていただいております。
認可後のトータルサポートの点も含めて,是非当事務所にご相談をいただけると幸いです。